「増分主義」から、「減分主義」へ。 ストック活用と選ばれる新築住宅とは?


ブログ2017.1.25

 

昨年末、たまたま手にとった「老いる家 崩れる街」(野澤千絵著)はかなり衝撃的だった。最新号の住宅関連業界の業界紙「新建ハウジング」でも2ページにわたり紹介されている。

 

今週の週刊「東洋経済」でも「持ち家が危ない」というかなりセンセーショナルな特集を組んでいる。「マイホームが負動産になる」という副題までついている!

 

少子高齢化による空家問題・住宅過剰問題等、身近な事例も含めてこれまでの住宅業界が多くの矛盾を孕んでることに、驚きと焦りを禁じえない。

 

また「老いる家 崩れる街」では、作り続けられる超高層タワーマンションや郊外型新築住宅・賃貸集合住宅の孕む問題も報告されており、広告という側面ではあるが住宅・不動産業界にかかわりを持つものとして、かなりショッキングな内容だった。

 

これは、戦後ずっと経済が拡大することを前提にした政策「増分主義」=「満足化の追求」が採られ、新規の投資分のみに着目した様々な施策が行われ、いままでのストックに関しては置き去りのままだったという結果がもたらした大変由々しき大問題である、とも指摘している。

 

住宅の分野では、住宅ストックが世帯数を上回ったにもかかわらず新築至上主義は改められず、なんと既存住宅の建替え率は日本では10%ほどとのこと。

 

住宅会社や不動産会社は売れるからと、田んぼや畑、野原、山林を虫食い的に開発し、郊外型住宅として都心部より安価な住宅を供給し、購入者も庭付き車庫付きの一戸建てがコスパよく手に入れられるとあって、都心部から郊外へ越していく。

 

行政としては、そこには新たに生活に必要なインフラを用意しないといけない。縮小する財政にとっては重たい投資であろう。しかし、行政区の人口増を意図して市街化調整区域の規制緩和を進めたのも行政なのだから、自業自得ともいえる。

 

国も音頭をとってストック住宅の流通活性化に乗り出したが、現実はまだまだこれからといったところ。住宅業界だけの問題ではなく、先述した国や行政の制度や仕組みづくり・運用面でも難があったことも否めないだろう。

 

また道路や橋、トンネル、水道・下水施設等、社会インフラは高度成長期に次々に新設され、ここにきて老朽化のせいで各地で事故が頻発しているのはご承知の通りだ。

 

これから加速度的に進行する人口減、世帯数減の社会を迎え、いわゆる「減分主義」へ早く舵をとり、住宅を含めた既存の社会ストックをしっかりメンテナンス・維持管理していかないと、将来世代へ大きなツケ(代償)を残すことになりかねない。

※「減分主義」=最適化の追求という原則の元、既得権益の見直しにも踏み込みながら、何を削減するかが議論の対象となること(「老いる家 崩れる街」よリ引用)。

 

特に住宅・建築産業としては過分なストックを持ちながらいまだに「スクラップ&ビルド」を繰り返してる現状を十分に検証吟味し、これからの私たちの社会的な使命として、既存住宅・建築物を良好な資産として将来世代に引き継ぐことこそ、今を生きる私たちが意思決定し、今実行しなければいけないことだと思う。

 

このようなストック活用時代においても新築住宅のニーズがなくなるわけではないが、限られたパイを各社が奪い合う構図はより激しさを増すであろう。

では、どのような新築住宅が選ばれるのであろうか?

 

少なくとも耐震性や省エネ・断熱等の性能の重要性は高まるであろうが、ライフスタイルの実現やコスパの追求等、より多様化した住宅取得層に「どうピンポイントで刺さるか」がキモになってくるだろう。

そして、魅力ある街、つまりマンション同様「立地」が決め手になるのではないだろうか、とフンでいる。